これまでの研究

ヒルシュスプルング病類縁疾患については1988年に実態調査報告が日本小児外科学会雑誌に発表され(豊坂昭弘)、1993年にはヒルシュスプルング病類縁疾患研究班(岡本英三)が作られて全国調査が行われています。ヒルシュスプルング病類縁疾患の中には、自然治癒傾向のものと難治性のものとが混在している状況であることがわかり、正確な診断法の確立や治療指針の作成が望まれていました。
こうした状況で、平成23年度に厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業として「Hirschsprung病類縁疾患の現状調査と診断基準に関するガイドライン作成」(田口智章)が発足しました。各施設では数例程度しか存在しない希少な疾患について網羅的な検討を実現するために、全国調査を実施して本疾患の分類・診断法についてコンセンサスを得ることを目的としました。

まず、日本小児外科学会の認定施設および日本小児栄養消化器肝臓病学会会員の所属施設、計161施設に対して、2001年から2010年の10年間の全症例についての調査を実施しました。これにより同期間における本邦本疾患をほぼすべて網羅できると考えられます。157施設(回答率98%)より回答を得て、計353例を集計することができました。
このプロジェクトは平成24年-25年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「小児期からの消化器系希少難治性疾患群の包括的調査研究とシームレスなガイドライン作成」(田口智章)に引きつがれて継続し、集計症例についてより詳細な調査を遂行しました。これにより分類についてのコンセンサスが得られ、以後調査の解析結果を英文論文として報告し世界に向けて発信してきました。

平成26年-28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「小児期からの希少難治性消化管疾患の移行期を包含するガイドラインの確立に関する研究」(田口智章)において研究班のひとつの目標であった診療ガイドラインが完成しました。また同時期に小児慢性特定疾患や指定難病の見直しが行われ、ヒルシュスプルング病類縁疾患の中でも重症な3疾患(腸管神経節細胞僅少症、巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症、慢性特発性偽性腸閉塞症)が小児慢性特定疾患および難病に指定されるに至りました。
並行して新規治療法開発の試みもなされ、平成26年度厚生労働科学研究委託費難治性疾患実用化研究事業「ヒルシュスプルング病及び類縁疾患の幹細胞を用いた病因病態解明と新規治療法の開発」(田口智章)においては、幹細胞を用いた腸管神経節細胞僅少症に対する再生医療の可能性についての検討が前臨床研究としてすすめられました。

現在の研究

これまで行われてきた班研究は現在、あらたな局面へときています。当初の目標であったガイドラインは整備され、医療政策に関する提言から難病の指定を得るに至り、今後の研究を継続する基盤が整いました。しかし病気の原因究明・有効な治療法の開発といった課題はいまだに達成されていません。

現在、政策研究として平成 29年度から始まった厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「小児期から移行期・成人期を包括する希少難治性慢性消化器疾患の医療政策に関する研究」(田口智章)において、研究が継続しています。ここではヒルシュスプルング病類縁疾患を含む小児期に発症する消化器の希少難病を対象として、学会や国民・患者に対して疾患の普及・啓発をすすめ、早期診断や適切な施設での診療等をめざした診療提供体制の構築をはかることを目指しています。症例登録制度や長期フォローアップ可能な体制を整備して長期予後の解明と移行期および成人期医療の構築といった長期的目標を設定して検討がすすめられています。

同時に、平成30年度からは日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「ヒルシュスプルング病類縁疾患診療ガイドライン改定を目指したエビデンス創出研究」(田口智章)が発足しました。すでに出来上がった診療ガイドラインをより良いものへと改定することを目標に新たなエビデンスの創出を目指すものです。これまでに行ってきた全国の症例集積をさらに拡張して、新規症例の前向き登録や外科手術についての前向き研究をAll Japanの体制で施行することが目標とされています。また、これまで個々の病院では困難であった病理診断について中央病理診断システムを構築し、同時に人工知能による腸管神経節細胞の解析についても検討をすすめています。