治療について

ヒルシュスプルング病類縁疾患では、様々な理由により腸の蠕動不全が起こっていると推測されますが、それらの原因が何であるかはまだはっきりと解明されていません。病気の原因がわからないため、現在行われている治療は起こっている症状に対したもの、つまり対症療法に限定されています。

ここでは、ヒルシュスプルング病類縁疾患の治療について、現在行われているものを紹介します。

ヒルシュスプルング病類縁疾患の治療(総論)

ヒルシュスプルング病類縁疾患の患者さんは、大きく分けて3つの問題に悩まされます。1つ目が、腸管の蠕動不全に伴う腸内容のうっ滞、2つ目が腸管内容うっ滞に伴う脱水・栄養失調、そして3つ目が脱水栄養治療用の点滴ルートのトラブルです。

ヒルシュスプルング病類縁疾患でまず問題となるのは、腸管内容のうっ滞です。腸内容がうっ滞することで、腹痛、腹部膨満(お腹が張る)、排便困難を引き起こし、膨満が強くなると嘔吐や腸内での便腐敗や敗血症、さらに呼吸困難、腸破裂をきたす場合があります。これに対し、腸にチューブを挿入して減圧する(吸引や洗浄をする)ことや、ストーマ(腸瘻)の造設(腹壁に腸の出口をつくり腸液・便やガスが出るようにする)が行われます。出生後の新生児に腹部膨満を認める場合、まず最初に、鼻や口、または、肛門からチューブを挿入し、ガスや腸液の吸引を試みます。それでも、減圧がうまくいかない場合、または、チューブで減圧できても、その減圧が長期にわたり必要になると判断された場合には、ストーマ造設を検討します。ストーマ造設により、チューブなしでも減圧が行えます。

次に問題となるのが、脱水・栄養失調症です。腸内容のうっ滞に伴い、食事や水分摂取ができなくなります。この状態で、減圧用のチューブやストーマからの排液が増えると、容易に脱水状態となります。極端な脱水では生命維持が困難になるため、点滴での水分補給が必要です。また、食事ができないことで栄養が不足します。このような場合にも栄養を点滴で補充することが必要になってきます。水分や塩分、少量の糖分のみであれば手足の末梢血管への点滴で補充が可能ですが、栄養価の高い高濃度の点滴や、24時間持続の点滴が必要な場合には、中心静脈カテーテルと呼ばれる点滴カテーテルを心臓の近くまで挿入して点滴を行うことが必要です。

中心静脈カテーテルでの点滴は、ヒルシュスプルング病類縁疾患の患者さんが、水分補給、栄養補給を行い生存していくために必要不可欠な点滴方法だと言えます。今日では、長期留置型のカテーテルや自宅で使用可能な在宅中心静脈栄養ポンプなどにより、自宅での中心静脈注射の継続が可能になっています。しかし、カテーテルのトラブルはゼロではなく、カテーテルの閉塞、破損、そして感染が起こる場合があり、そしてそのような場合には、カテーテル入れ替えが必要になります。特に小児においては、カテーテルの挿入や入れ替えは、全身麻酔での手術が必要となるため、破損、感染などが起こらないようにカテーテルを管理することは非常に重要です。

ヒルシュスプルング病類縁疾患は根治的な治療法がないため、中心静脈注射が困難になった場合、生命の維持が困難となります。そのような場合には小腸移植が検討されます。小腸移植は非常に効果的な治療法ですが、同時に合併症が多く、移植した小腸の拒絶や、免疫抑制に伴う感染などの頻度が少なくないことから、その予後は安定しているとは言えません。そのため、手術を行うべきかどうかの判断は慎重に検討される必要があります。

ここまでで、①チューブ減圧②腸瘻造設③中心静脈点滴(栄養)④中心静脈カテーテルの管理⑤小腸移植を概説しました。次項では、それぞれについてもう少し詳しく説明します。

ヒルシュスプルング病類縁疾患の治療(各論)

1チューブ減圧

チューブ減圧は、口、鼻、肛門などの開口部からチューブを挿入して、ガスや腸液を吸引する方法です。この方法は、うっ滞した腸内容を減圧するための最も簡単な方法でもあります。チューブ減圧が成功すれば、腹部膨満や嘔吐、腹痛の症状は改善します。また、腸の中で便が腐敗する事による敗血症を予防することもできます。しかし、腸の内容が便のように液体以外を含む場合、吸引でチューブが詰まってしまうため減圧がうまくいきません。このような場合、温めた生理食塩水をチューブから注入し、その後吸引する、ということを繰り返して、減圧を行う場合があります。これを腸洗浄と呼んでいます。また、次に記しますストーマからチューブを挿入し、減圧や腸洗浄を行うこともあります。しかし、腸の長さが長かったり、腸が屈曲している場合などは、減圧・洗浄が難しいことが少なくありません。そのような場合には、十分減圧するために、根気よく時間をかけて処置を行うことが必要になります。腸洗浄による、本人や家族、ケアスタッフの負担が大きすぎる場合は、腸洗浄を簡単にするために手術でストーマを造設したり、ストーマの作り直しを検討する場合があります。

2ストーマ(腸瘻)造設

ストーマ造設は、腸の途中で排液のための出口を作ることです。通常は胃、小腸、大腸のいずれかを腹壁に固定して開口させます。腸瘻によりうっ滞している腸内容を体外に出すことができれば、腹部膨満や、腹痛、嘔吐などの症状を改善させることができます。ヒルシュスプルング病類縁疾患では腹部膨満のために食事の摂取が全くできなくなる場合も少なくありません。また、経口摂取を行ったことで、うっ滞した腸内容が腐敗し、敗血症になってしまう場合もあります。ストーマを増設することにより、食べられるようになったり、腹痛が改善したりするため、一部を除くほとんどのヒルシュスプルング病類縁疾患の患者さんでは、ストーマの造設が必須となります。一方で、ストーマの造設は、本来吸収されるべき腸液が体外へ排泄するルートとなるため、脱水や栄養不足は悪化する可能性があります。実際には、苦痛緩和のためのストーマの造設と、不足する水分や栄養を補う点滴の2つの治療を同時に行う場合がほとんどです。

ヒルシュスプルング病類縁疾患では、成長とともに、または、時間経過とともに、徐々に腸管の動きが改善してくる場合があります。しかし、ストーマで完全に腸液を体外へ排泄してしまうと、それよりも肛門側の腸に腸液が流れず、腸が萎縮してしまいます。そこで、ヒルシュスプルング病類縁疾患の患者さんでは、うっ滞して溢れた腸液のみ体外に排泄され、それ以外は肛門側に流れるように、腸を人型(またはλ型)につなぐ、特殊な人工肛門(Bishop-Koop型、Santulli型)を造設する場合があります。

ストーマの写真(例)
3中心静脈点滴(栄養)

中心静脈点滴(または中心静脈栄養)は、首や胸、脚の付け根などから太い静脈にカテーテルを挿入して点滴を行うことです。太い静脈にカテーテルが入ることで、栄養価が高く濃度の濃い点滴液を行うことができるほか、手足が自由になるため、日常生活を送る際の不都合が減ります。血流の多い中心静脈に直接点滴を行うことができるため、通常手足から行う末梢の点滴で問題となる、痛み、腫れ、漏れの問題からは開放されます。一方で、中心静脈へのカテーテル挿入は手足に行う点滴ほど容易ではなく、小児の患者さんに中心静脈カテーテルを挿入したり入れ替えたりする場合には全身麻酔が必要になります。

ヒルシュスプルング病類縁疾患のお子さんの治療においては中心静脈栄養は大きな位置を締めます。なぜなら、この疾患の場合、出生直後より強い腹部膨満が出現するため、出生直後は経口摂取ができないことが多いからです。経口摂取が不十分の場合、通常は24時間持続での中心静脈栄養を開始します。この点滴は、経口摂取が十分取れるようになるまで継続する必要があります。多くの症例で、中心静脈カテーテルは年単位で維持していくことが必要になります。

年単位で全く経口摂取ができなくても、中心静脈栄養で、糖分、アミノ酸、脂肪や微量元素の点滴製剤をバランスを取りながら点滴することで、成長したり自宅で生活を行うことが可能となっています。中心静脈栄養を行いながら、成長して、妊娠して出産された患者さんもいらっしゃいます。しかし、長期の中心静脈栄養では、中心静脈栄養それ自体の合併症であったり、腸管を使わないことによる合併症で、肝臓を始めとしたその他臓器へ負担がかかり、脂肪肝や肝不全となってしまう場合が少なくありません。脂肪肝や肝不全は患者さんの予後(寿命)を決める、一つの大きな因子になっています。そのため、肝臓を保護しながら栄養治療を行うことが重要になります。

年単位で中心静脈栄養を行う場合、避けて通れないのが中心静脈カテーテルそのもののトラブルです。次項ではカテーテル関連のトラブルとその対処を紹介します。

4中心静脈カテーテルの管理

中心静脈カテーテルはヒルシュスプルング病類縁疾患のお子さんの栄養を維持する上で必要不可欠なものです。しかし、このカテーテルが留置されていることで様々な合併症が起こる場合があります。カテーテルの合併症には、抜去、破損、感染、血栓、血管閉塞などが挙げられます。ヒルシュスプルング病類縁疾患の場合、カテーテルは長期留置型の部分的に組織に癒着するタイプのカテーテルを使用することがほとんどです。挿入留置してから数週間で組織に癒着するため、容易にはカテーテルは抜けませんが、点滴ルートが引っかかって牽引されてしまうような場合などで抜けてしまう場合があります。また、中心静脈栄養用のカテーテルはしなやかな素材であり、容易には破損しませんが、数年留置している場合などは、破損して入れ替えが必要になる場合があります。カテーテルに細菌が付着して繁殖するような場合、血液中に細菌が検出される敗血症となる場合があるほか、カテーテル周囲に血液が凝固し、血栓を形成してカテーテル抜去を余儀なくされることがあります。長期にカテーテルを留置した血管は血栓やその他の理由により徐々に閉塞してしまう場合があることもわかっています。完全に血管が閉塞してしまった場合はその血管には次のカテーテルの挿入ができなくなるため、血管が閉塞しないようなカテーテル管理法が各施設で検討されています。

ヒルシュスプルング病類縁疾患の患者さんにとって、カテーテルを挿入する血管の閉塞は大きな問題となります。中心静脈カテーテルを挿入することができる血管は通常、上半身に4本、下半身に2本の、計6本ありますが、中心静脈カテーテル挿入の時間経過によって、それらの血管が徐々に閉塞していきいます。血管の閉塞は通常緩徐に起こるため、それ自体では腫れやむくみなどの症状は出現しませんが、そのかわり、太い血管にかわって、周囲の細い血管に血が流れるようになるため、次回カテーテルの入れ替えではカテーテルを挿入しようとしても挿入できません。

中心静脈カテーテルが留置や、中心静脈カテーテルの維持困難になるような場合には、次項で説明する小腸移植が検討される状態となります。

長期留置用中心静脈カテーテル(例)
手術で中心静脈カテーテルを留置したところ
5小腸移植

小腸移植はヒルシュスプルング病類縁疾患患者の腸を切除し、健常な小腸の持ち主から切除した小腸を患者に移植する、という治療法です。血縁者などの縁故のある方の小腸を手術で切除して移植する場合(生体ドナー)と、臓器提供意志のある脳死患者からの臓器提供(脳死ドナー)の2つの場合があります。小腸移植はもともと保険適応外の治療法でしたが、2018年4月から保険適応となり、ヒルシュスプルング病類縁疾患の患者さんにとっても治療の選択肢が広がりました。動かない腸を動くようにする治療法が未だ実現されていないため、小腸移植はヒルシュスプルング病類縁疾患に対して現在行える唯一の根治的治療法であると言えます。

しかし一方で、小腸移植は肝臓や腎臓といった他の臓器に比べると移植手術後の合併症の頻度が高い治療法です。日本における小腸移植は、1996年に開始されてから29例の移植が実施されているのみであり、他の臓器に比べると症例数は少なく、限られた施設でしか行われていません。この背景として、日本における小腸移植の成績が、1年生存率は88%と良好なものの、5年生存率が70%、10年生存率が51%にとどまっているということが挙げられます。小腸移植がより安定した治療法として広く確立されるためには、さらなる治療成績の向上が必要であると考えられます。

日本における小腸移植実施件数(2016年まで、計27件)
日本における小腸移植成績(患者生存曲線)

おわりに

ヒルシュスプルング病類縁疾患に対し、現在行われている治療を概説しました。ヒルシュスプルング病類縁疾患の治療においては、説明したどれか一つのみを行うことでは対応不可能であり、担当医、担当スタッフは複数の治療法を組み合わせながら、可能な限り良い状態を目指して診療を行っています。近年の治療、管理の進歩で、ヒルシュスプルング病類縁疾患は、徐々に小児期においては救命可能な疾患となってきました。次の課題として、小児期を乗り切ったお子さんたちが成長して社会人となっていくにあたり、身体的、社会的な問題を乗り越え、普通の日常生活が過ごせる診療の体系を実現していくことが必要であると考えられます。